ラブライブ!と秋葉原と神田明神〜静と動〜

ラブライブ!」9話に、μ'sにとっての「秋葉原」とはどんな街なのか?というテーマがある。

絵里にとっては「次々新しいものを取り入れて、毎日目まぐるしく変わっていく」「どんなものでも受け入れてくれる」のが秋葉原だし、
ことりにとっては「不思議と勇気がもらえる」、「思いきって自分を変えようとしても」「受け入れてくれる気がする、そんな気にさせてくれる」のが秋葉原である。

二人のセリフが、ラブライブ!というアニメはどんなアニメなのか?を表現しているとも言えるだろう。
(参考:ラブライブ9話と都市論 - まっつねのアニメとか作画とか)
そして、ことりにとっての秋葉原観を一言で表現した言葉が「ワンダーゾーン(Wonder Zone)」であった。


作中では、秋葉原はスクールアイドルグループ"A-RISE"のお膝元であると同時に、UTX高校の所在地でもある。音ノ木坂学院が廃校に追い込まれているのはUTX高校が持つ時流に乗った新進気鋭さ、カリスマ性が受験生に魅力的に映るのが原因である。

一方、音ノ木坂学院はトラディショナルな性格を持つ学校である。
ポジティブに言えば「歴史と秩序を重んじる」と言えるが、
ネガティブな解釈をすれば「時流から置き去りにされた」学校である。


学校がスクールアイドルを誕生させてまで時流に乗る必要があるのか?と一瞬思う。他の街ならばその必要はあまりないだろう。
が、音ノ木坂学院秋葉原と神田と御茶ノ水の間にあるのである。せいぜい秋葉原までも徒歩10分もかからないであろう。

地理的にUTX高校、「秋葉原」という街のもつ性格から逃れることはできないのである。アイドルは残酷な格差社会


ことりと絵里の秋葉原観は非常にポジティブなものだ。
しかし、それを裏返すとどうなるか。


秋葉原とは、「古いもの(飽きられたもの)は表舞台から消えてしまう」街なのである。


上坂すみれさんがこんなことを言っていた。

大槻「この間のラジオでもすみれちゃんが中野ブロードウェイで学んだ文化は生きてく上でいらない文化だから、全部捨てていいよっていうアドバイスをしたんだよね(笑)」
上坂「いやー、でも私、中野ブロードウェイがなかったら途中で人生をリタイアしていたと思います。だから私を繋ぎ止めてくれた存在です」
大槻「アキバには行かなかったの?」
上坂「アキバは小、中学生から行ってましたけど、アキバって放送しているアニメが終わると、その作品を扱わなくなって、街がどんどん変わっていっちゃうんんです

モテるためには着ていません、ロリータ服は装甲。声優・上坂すみれの戦い - エキサイトニュース(3/6)

この「変わっていっちゃう」ことを最も象徴しているのが目を引く「巨大広告」である。
数ヶ月も経てば大体は入れ替わってしまうだろう。
もちろんふと路地に入れば古いビルはまだまだ沢山あるし、やっちゃばが存在した頃から残っている店もある。
しかし、華やかな表舞台、アイドルにとってのライブステージに立っているとは言えない。
秋葉原で最も目立つのは、駅前と、最も人通りの多い中央通りにあるものなのだ。駅前と中央通りこそステージ。

実際にアニメ9話で、μ'sは中央通りに面するベルサール秋葉原の前をステージにしてライブをやり、放送後最初の週末に現実ではベルサール秋葉原でイベントも催された。


秋葉原(住所的には千代田区外神田)という街には非常に動的なイメージを持たせる要素が多数ある。

しかし、秋葉原にはおよそ1300年もの間変わることなく、同じ場所に鎮座し続けるものがある。


それが「神田明神」である。


最初、「ラブライブ!」というアニメの舞台の一つに神田明神が選ばれたのは、希に巫女服を着せてスピリチュアルパワーを増しキャラ立てするため、地理的に近く男坂が急な階段があるためとだけ思っていた。
μ'sのメンバーが練習するというプロセスを表現するだけなら、「Wonderful Rush」のPVでことりが走っていた坂を選べばアニメ10話のにこの「おーいはやくはやくー!」と同様の効果が得られたかもしれないし、希も江戸遊あたりでアルバイトをしている設定にすればどうにか引き合わせられる。


しかし、もっと大事な理由がある。
それは、圧倒的な「静」を孕んでいるから。


生徒がいなくなれば消えてしまうような音ノ木坂学院の比ではないくらいに、ずっしりと構えた存在だから。
毎日目まぐるしく変わっていく秋葉原という街に位置していながら13世紀もの間変わらない。
スピリチュアルな場所とは言い得て妙である。


音ノ木坂学院は架空の存在だし明確にモデルとなった建物もないから、いまいち身近に感じないところがある。ついでに聖地巡礼もできない。
一方神田明神秋葉原に実在する上に、何よりあらゆるものが目まぐるしく変わっていくアニメ「ラブライブ!」の中で、圧倒的に「変わらない」存在として登場できるのである。

そんな圧倒的「静」の中で、同じく「静」のカテゴリーに入る音ノ木坂学院の生徒が、スクールアイドルとしての実力を高めようと、ラブライブ出場、秋葉原=「動」の象徴であるA-RISEを目標に「動」く。
「動」いた結果、秋葉原のアイドルショップにはμ'sのグッズが並ぶようになった。


この神田明神からUTX高校を眺めるカットとか物凄く象徴的。



秋葉原から少し離れるが、穂乃果の家のモデルとなった「竹むら」の建物も、「竹むら」の創業が昭和5年なので少なくとも築80年以上。東京大空襲、高度経済成長などの圧倒的な「動」に翻弄されず残った「静」的な存在である。
そんな建物の中で、μ'sの明日を拓くためにメンバーが「動」き様々な出来事が起こる。ことりが全力でお願いしたり海未ちゃんがマイクを練習してたり海未ちゃんが練習してたり海未ちゃんが練習してたり練習してたり練習してたり。


容易に変わらない「静」的なものを舞台として登場させ、そこにμ'sの活動、特にライブに向けたあらゆる下準備を集約させることで、「ラブライブ!」というアニメは、μ'sというスクールアイドルの胎動をより象徴的にしているのである。